英文タイトル: Blood gas measurements with the electrodes directly connected to the patient's artery
血液ガスの測定には、通常の機種の他に"POC:point of care"機種と称する手で持てるような小型のものもありますが、両者の基本技術と測定手順は共通しています。この他に「経皮電極」があって、こちらは連続測定が可能な点が特徴ですが、さほど普及しているとはいえません。
以前、Po2電極を血管内に留置するタイプのものがあって、一時使用されて健康保険も適用されましたが、何故か商品としては姿を消しました。またそれ以前に、マススペクトロメーターで血液のPo2とPco2を血管内で測定するものもありましたが、こちらは実験レベルを出ませんでした。
採血・測定・還血で頻回測定
ずっと以前の1970年代に、「血液を自動的にサンプルして計測してからその血液を患者に戻す」という装置が発表されたのを読んだ記憶があります。
このメカニズムのものは、連続ではないけれど頻回の測定が可能で、しかも出血量がごく少なくて済むので、新生児や小児にも適用が可能なはずです。その技術がどうなっているか知ろうと、"inline-measurement"というような用語で検索したところ、実際に商品化され論文にもなっており、FDA の承認も得たという情報が得られました。
"VIA LVM Blood Gas and Chemistry Monitor” という製品名で、URL は http://www.viamedical.com/lvm.html とhttp://medizin.li/profiles/company_me/me_00050210.htm の二つがあり、前者は社名は”Via Medical: A division of International Biomedical”でヘッドクォーターはテキサスとなっとおり、後者は社名は"Metracor Technologies”で所在がカリフォルニア州サンディエゴとなっていて、両者の関係は不明ですが同一商品を扱っています。後者の頁が新しくて、2008年の日付もあるので、会社名が変わったか買収ないし統合されたのかも知れません。機種としては、サンプル量が標準のものと新生児用の低量サンプル量のものがあります。2000年頃から多施設共同試験の論文が発表になっており、その頃に初期の製品ができたと推測します。
動作の条件
会社のホームページにも簡単な仕様は発表されていますが、むしろ論文に内容が詳しいのでそちらを紹介します。参考文献の1と3は いずれも新生児が対象で、全文がPDFファイルで公開されています。2は学会抄録で、3がその論文です。1 は対象児の数は16例、3は7つの施設で児数は100例です。いずれも、採血による標準のベンチ型装置使用の測定値と当器の数値を比較しています。
測定パラメーターはpH、PCO2、PO2の他にNa+、K+、ヘマトクリットの6つで、それ以外の酸塩基平衡パラメーターや温度補正などの計算ももちろん施行します。
どちらの論文も「比較の成績は良好」としていますが、参考文献1のほうが具体的な記述が多いので、そちらを中心に述べます。
本器のターンアラウンドは2分で、それが採血・測定・還血に要する時間です。出血量は、この装置では、通常装置を使用した場合の約10分の1で、溶血はなく他の安全面でも心配な点はなかったと述べています。
ベンチ型使用との比較した測定精度は両者ほぼ同等ですが、ヘマトクリットの測定精度が劣ったと述べています。また、当初ソフトウェアのクラッシュが発生しましたが、これはまもなく修正されました。さらに、患者に使用する前に較正する時点で電極の異常がみつかったことがあるけれど、患者に使用中は正しく動作した由です。
対象患者の入室時診断は、原発性肺高血圧症、先天性心疾患、RDS、肺炎、敗血症、低酸素性虚血性脳症などで、現在はICUの児の50-60%に使用するようになったと述べています。
問題点として、下の9点ほどを挙げています。
1) 装置の電源を入れたばかりの時点で、回路のフラッシュ量が正しくない
2) 画面のメッセージの意味不明
3) チューブと電極系に気泡が発生
4) 1点較正がうまくいかなかったことがある
5) 反復測定に時間がかかりすぎたことがあった
6) 装置が1点較正をしていると、その間は測定が待たされて時間がかかった
7) 1.5 ml程度のサンプル血を還血する代わりに捨てたことがあった
8) 測定ごとに少量の晶質液を患者に加えるので、頻度が高いとこの量を問題にする必要がありそうである
9) システムの使用は、電極系一組に対して3日までとした。その限りではトラブルはなかったので、もう少し延長できるかも知れない
参考文献3に時間経過の詳しい図が載っていますが、65時間まで安定した記録が得られています。
モニターの費用は、1例あたりの電極の費用が300ドルで、他に費用はなしとありますが、特に費用の問題を研究した参考文献4によると、1例あたりの費用は325ドルで、オフラインでケアした患児ではその1.23 倍を要しとしています。この論文は、全文が読めず抄録だけなので、くわしい点は不明です。電極系の消耗費を支払ってくれれば、装置の本体は無料で貸し出すということでしょうか。
その他のインライン装置
インライン装置として、他に体外循環時に人工心肺の回路に組み込むものがあり、こちらは解説もあります(http://www.perfusion.com.au/CCP/Perfusion%20Equipment/In-line%20blood%20gases.htm、http://ieeexplore.ieee.org/xpls/abs_all.jsp?arnumber=95085、http://www.iop.org/EJ/article/0143-0815/8/3/004/pmv8i3p249.pdf )。商品が少なくとも3種類はあり、それも通常の電極の他に光電極や蛍光も使用しています。さらにガスクロ使用の機種もあり、こちらは血管内電極として使っています。(http://www.cja-jca.org/cgi/content/abstract/26/3/157) ただし、1979年と古い発表です。
人工心肺使用時は脈動がないので、通常のパルスオキシメーターは使えません。もっとも回路は動脈と静脈が明確に分かれていますから、脈動のない通常のオキシメーターが使える理屈です。しかし、そういう商品の入手がむずかしいでしょう。むしろ、光電極の開発が進んで、その技術が他の臨床面に反映されることを期待しましょう。
参考文献
1. Widness JA, Kulhavy JC, Johnson KJ, Cress GA, Kromer IJ, Acarregui MJ, Feld RD. Clinical performance of an in-line point-of-care monitor in neonates. Pediatrics. 2000 Sep;106(3):497-504.
2. Billman, G; Dudell, G; Widness, John A; Adcock, L; Hall, D; Koska, J; Van Marter, L. Multicenter Evaluation of a Novel Low Volume Blood Gas and Chemistry Monitor for Neonates. The American Pediatric Society and The Society for Pediatric Research 1999 Abstracts. Pediatric Research. 45(4) PART 2 OF 2:37A, April 1999.
3. Billman GF, Hughes AB, Dudell GG, Waldman E, Adcock LM, Hall DM, Orsini EN Jr, Koska AJ, Van Marter LJ, Finer NN, Kulhavy JC, Feld RD, Widness JA. Clinical performance of an in-line, ex vivo point-of-care monitor: a multicenter study. Clin Chem. 2002 Nov;48(11):2030-43.
4. Alves-Dunkerson JA, Hilsenrath PE, Cress GA, Widness John A. Cost Analysis of a Neonatal Point-of-Care Monitor. Am J Clin Path. 2002:117( 5): 809 - 818.
図1 インライン血液ガス装置の概念図