今回は血液ガスのソフトウェアを紹介します。酸塩基平衡で名高いデンマークの臨床化学者Ole Siggaard-Andersen 氏が作成して提供して、もちろんフリーソフトウェアです。プログラムはWindows 用で、筆者のWindows-XP(panasonic Let's note CF-W2) でもWindows-2000 (Dell の卓上型) でも問題なく動作しています。
ソフトウェアのダウンロードの仕方
まずダウンロードから使用開始までを説明します。"http://www.siggaard-andersen.dk/" にアクセスすると、"Oxygen Status Algorithm" の表題でいくつかの短い解説があり、そこにある”OSAzip.exe”という名前のファイルをダウンロードします。このファイルを実行すると自動解凍します。そうして本来のプログラムである"OSA.exe"の他に、マニュアルと教科書と解説書との三者ができてそれがプログラムのHelp からみられるようになり、同時にキーワードから特定の単語・用語を引くことも可能になります。
プログラム自体は、血液ガスのデータのいくつかを与えると、他のパラメーターを計算し図示するという機能とスタイルです。各パラメーターには初期既定値が入っていますが、それで具合の悪いものは自由に書き換えて入力可能です。書き換えた値を中心にして計算しなおして、各パラメーターに自動的に入力しなおしてくれます。
使い方
ソフトウェアの使い方を少し詳しく説明します。
1) ”File”の項目に「設定」("setup")があり、ここで圧の単位に”kPa(キロパスカル)”を使うか"mmHg"か、濃度を分数で表現するかパーセントで表現するか、含量をmM/L で書くかvol% (ml/dl)、ヘモグロビン濃度をmM/L で書くかg/dl で表現するかを選びます。初期設定の単位はここに書いた前者です。
2) 「入力」("Input")の項目で先に定める項目を選びます。常識的には、pH とPco2 とPo2 でしょうが、たとえば[H+]と[HCO3-]とSao2 などという組み合わせも可能です。最初の入力に対応して、他の数値は計算されて全部自動的に入れ替わります。
画面にはタイトルだけあって、それをみても何かわかりにくいものもありますが、カーソルをあてると意味と数値を表示します。
画面の上方は患者のデータや基礎データの入力箇所で、左半分は酸塩基平衡およびpHと二酸化炭素関係のパラメーターの表示、右半分は酸素を含量と分圧で表示します。
2-1) 温度補正:各項目には"m"と”T”があり、前者は測定値で後者は体温に補正した数値です。
2-2) [HCO3-]と二酸化炭素含量が出ます。後者もmEq/L で出るのでこれを"ml/dl"の含量に変換するには2.22 を掛け算する必要があります。
2-3) ctHljPとctHljB : Base Excess という用語を使わずに「血漿の水素イオンの剰余」、「血液の水素イオンの剰余」という表現を試用しています。意味はほぼ同じでしょう。
2-4) "SID":今流行の"strong ion difference "です。内容は、ソフトウェアの解説をみて下さい。
2-5) 含量軸:FMetHb,FCOHb: メトヘモグロビンとカルボキシヘモグロビンで、両方とも0.5% と仮定しています。
2-6) Hb軸続:Hb の数値は総量を"ctHb"として上記の無効成分を差し引いた部分を"ceHb"として表記します。カーソルを当てるともちろん数値が表示されます。
2-7) sO2m: 酸素飽和度です。それに応じて、"cO2Hb"つまり酸素と結合しているヘモグロビン量があります。
2-8) cdO2 とctO2: 前者は溶存酸素、後者は酸素含量です。
2-9) cx:作者が定めたパラメーターで、”extractable oxygen"として、「ふつう状態で利用できる酸素の量」を表現します。具体的には分圧"5kPa"(36.6mmHg)までの酸素含量です。
2-10) 分圧軸:いわゆる「酸素の滝」(oxygen cascade)の数値が次々に出ます。
2-11) p50 と2,3DPG:p50を入れれば2,3DPG量を計算し、逆に2,3DPGを入れればp50を計算します。
2-12) Px: Px は上のCx に対応して、やはり作者が定めたパラメーターで、”oxygen extraction tension"として、「酸素含量2.3 ml/L (4.88ml/dl)までの酸素を放出した後の血液のPo2」を表現します。
3) "View"では、酸塩基平衡・酸素(酸素解離曲線など)・ガス地図("Gas Map")の三のグラフを描きます。
3-1) 酸塩基平衡のグラフ:馴染みのpH-log(Pco2) グラフに二酸化炭素平衡曲線・急性の酸塩基平衡変化と慢性の酸塩基平衡の正常域などを重ねたもので、グラフ上でカーソルを動かすとその場所の数値や診断を表示します。
3-2)酸素のグラフ:酸素解離曲線ですが、特徴は縦軸が酸素飽和度でなくて酸素含量になっていることと、横軸が対数目盛りでPo2が2000まで伸びていて、飽和領域から上で下に凸の曲線になります。これもグラフ上でカーソルを動かすとその場所の数値を表示します。
3-3) ガス地図("Gas Map"): Po2-Pco2 関係を描いており、ふつうの座標のままならO2/CO2ダイアグラムと一致しますが、Po2もPco2も対数軸になっているのでグラフの様子は馴染みがありません。
4) Help 機能:OSAzip.exe をダウンロードして正しく組み込めば自然に使えます。
ソフトウェアの使い道:強力なのでいろいろな使い方が考えられます。個々の数値の検討にもちろん使用できますが、グラフを描く機能をつかうと多数で参照して議論するにも便利かも知れません。
ソフトウェアの利点とコメント
考えられる限り、ないしそれ以上の事柄をすべて計算してくれます。いわば「万能」で、さすがにオーソリティの作成したものと感心します。プログラム自体は、Siggaard-Andersen 氏の子息の Mad Siggaard-Andersen 氏が開発しています。履歴はけっこう古くて、MS-DOS時代にすでにできていましたが、Windows 版の完成に少し時間がかかりました。
この種のソフトウェアは誰にでも書けそうで他にもいろいろとあってよさそうな気もしますが、実は基礎の化学・生理学の定量的な関係を熟知していないと手も足も出ません。それで結局Siggaard-Andersen 氏の学識が必要なのでしょう。使い勝手だけならもっと具合のよいものも作れるでしょうが、ソフトウェアを書く技術だけでは無理です。
名称について一言。“OSA"は、“Oxygen Status Algorithm"を表現するとなってはいますが、実は“Ole Siggaard-Andersen” のイニシアルでもあることは言うまでもありません。このやり方は、パソコンソフト命名の常套手段です。
問題点とか欠点というほどもない小さなことですが二つほど指摘します。
1) 小数点を"."(ピリオド)でなくて","(コンマ)で書きます。エクセルのファイルにも時にそういうのがありますが、私には違和感があります。
2) 座標軸を対数にしているグラフが多いのですが、等間隔目盛りも選べるようにしてくれると使い勝手が向上するでしょう。
”http://www.osa.suite.dk/”の中にこの他に詳しい解説だけをあつかうURLが紹介されており、たとえば" http://www.osa.suite.dk/OsaTextbook.htm" や、" http://inet.uni2.dk/home/osa/OSAversion3.pdf" もありますが、とりあえずダウンロードしてHelp としてついてくるもので十分です。
図説明
OSAの初期画面:印刷体では都合上黒白に変換したが、実物はカラーでこんなに美しい。
[諏訪邦夫]